「転職エージェントは複数使ったほうがいい」とよく言われます。でも、いざ登録画面を前にすると手が止まりますよね。本当に2社も3社も必要なのか。増やして対応しきれるのか。先に登録した担当者に「他も使っています」と言って、気を悪くされないか。この記事では、そのあたりの疑問を順番に整理していきます。
結論:「正解の社数」はない。ただし増やし方には型がある
先に書いてしまうと、何社が正解かという問いに、万人向けの答えはありません。 後述するとおり、調査データを見ても業界各社の案内を見ても、社数は見事にばらけています。
ただし「増やすと何が起きるか」「増やすなら何を管理する必要があるか」には、はっきりした型があります。この記事で扱いたいのは、そこです。
なお、どんな基準でエージェントを選ぶかについては、ITエンジニアの転職エージェント、リスクを抑える選び方 で整理しています。この記事は、その先の「実際に複数使うとき」の話です。
データで見る実態:1社・2社・3社がほぼ三等分
株式会社ジャストシステムが2019年7月に、転職を経験したことのある男女199名を対象に行った調査があります。転職サイト・転職エージェントを何社使ったかを聞いたもので、結果はおおむね次のとおりでした。
- 最も多かったのは「2社」で約30%
- 「1社」と「3社」がそれぞれ26%前後で続く
- 全体の平均は2.3社
- 「6社以上」と答えた人はいなかった
おもしろいのは、1社・2社・3社がほぼ三等分されている点。「これが多数派」と言えるほど突出した社数は存在しません。一方で、6社以上まで手を広げた人がいなかったことは、現実的な上限の目安として参考になります。
ただし、この調査には前提があります。2019年の調査であること、回答者が199名とそれほど多くないこと、そしてITエンジニアに限定した調査ではないことです。あくまで傾向を見る材料として捉えてください。
業界の推奨もばらけている
大手エージェント各社が公開している案内を見ても、推奨社数は一致していません。「まずは1〜2社から」と案内しているところもあれば、「2〜3社」を挙げているところもあります。
各社が適当に言っているというより、読者の状況によって答えが変わるから断定できないというのが実情に近いのだと思います。だとすれば、自分で決めるための軸が必要になります。
適正数を決める2つの軸:「転職の緊急度」と「確保できる時間」
社数を決める軸は、この2つで足ります。
転職の緊急度が高いほど、選択肢を早く集める必要があるので社数は多めに寄ります。逆に「良い求人があれば考える」くらいの温度感なら、1社で十分間に合います。
問題は確保できる時間のほう。ここで多くの人が判断を誤ります。
「時間がないから1社で済ませたい」は、おそらく逆
在職中のエンジニアには、そもそも転職活動に割ける時間がほとんどありません。日中は実装とミーティングで埋まり、定時後は家庭の時間。自分の時間が戻ってくるのは夜遅くになってからです。そこから求人サイトを開いて条件を絞り込んで比較して……という気力は、正直なところ残っていないと思います。
この状況だと「ただでさえ時間がないのだから、エージェントも1社に絞ろう」と考えたくなります。でも、これはおそらく逆です。
自分で求人を探す時間は、社数を減らしても減りません。むしろ紹介が少ないぶん、自分で探す時間が増えます。 一方、エージェントを増やせば、求人を探す作業そのものを預ける先が増える。提案は向こうから届くので、あなたの時間は「探す」ではなく「見比べて決める」ことに使えます。
限られた時間をどこに使うかという配分の問題として捉えると、判断が変わってくるはずです。
私の場合
私自身、転職活動のときは1社しか使いませんでした。当時の経緯は ITエンジニアの転職エージェント、リスクを抑える選び方 に書いたとおりですが、今振り返って一番もったいなかったと思うのは、担当者から提案される求人の幅が、そのまま自分の選択肢の幅になってしまったことです。
比較対象がないので、提案された求人が世の中の相場と比べて良いのか悪いのかも判断できませんでした。「エージェントが推薦してくれたので、たぶん悪くはないのだろう」という漠然とした感覚だけで進めることになり、求人の幅が狭くなったのを覚えています。
今もう一度やるなら、性質の違うエージェントを2社は使うと思います。担当者との相性も、扱っている求人の傾向も、実際に話してみるまで分からないからです。
併用の最大の落とし穴:重複応募
ここが、この記事で一番お伝えしたい部分です。併用を始めると、同じ求人に二重に応募してしまうリスクが生まれます。
なぜ起きるのか
企業が同じ求人を複数のエージェントに出しているケースがあるためです。A社とB社の両方から、実は同じ企業の同じポジションを紹介される。これが普通に起こります。求人票の書き方や社名の伏せ方が違うと、同じ求人だと気づかないまま応募してしまうわけです。
何が起きるのか
企業側には、すでに別のエージェント経由で推薦が届いていることが分かります。多くの場合、後から届いたほうは選考を受け付けてもらえません。
さらに厄介なのが、採用担当者に「応募状況を管理できていない人」という印象を与えかねないこと。選考が始まる前からマイナスの評価がつくのは避けたいところです。紹介したエージェント側との関係にも影響します。
併用そのものが悪いのではなく、管理されていない併用こそが問題です。 裏を返せば、管理さえできていれば併用のリスクは大きく下がります。
併用していることは担当者に伝えるべきか
伝えて問題ありません。むしろ伝えたほうが良いです。
エージェント各社の公式な案内でも、併用は一般的なものとして扱われています。隠すことでもありませんし、伝えたこと自体で不利になるとは考えにくいです。
それに実務的な利点もあります。伝えておけば、重複応募の調整をしてもらえるからです。「その求人は他社からも紹介を受けています」と言えば、どちらか一方から応募する形に整理してもらえます。
伝え方は、こんな一言で十分です。
「他のエージェントにも登録していて、いくつか求人を紹介いただいています。選択肢を広げたいと考えているので、そちらでもお願いできればと思っています」
なお、連絡のやり取りが増えること自体が気になる方は、ITエンジニアの転職エージェントは本当にしつこい? もあわせてご覧ください。
在職中エンジニアのための管理方法
凝った管理は続きません。最低限、次の3つで足ります。
- 応募した企業名・日付・経由したエージェントを1箇所に記録する(スプレッドシートでもメモアプリでも構いません)
- 新しい求人を紹介されたら、応募する前にその記録を見る
- 少しでも見覚えがあれば、応募前に担当者へ「この求人、他社経由でも紹介を受けたかもしれません」と伝える
やっていることは、重複を検知してからマージするという日常業務と同じ発想です。応募という不可逆な操作の前に、一度だけ確認を挟む。それだけで、さきほどのリスクはほぼ防げます。
良い評判・気になる評判
「複数社の提案を見比べたことで、自分の市場価値の相場観がつかめた」という声がある一方で、「やり取りする相手が増えて、本業に支障が出そうになった」という声もあります(公開されている口コミの一般的な傾向であり、特定のサービスや個人の体験を保証するものではありません)。
面談の回数も社数のぶんだけ増えます。何を聞かれるかを事前に把握しておくと負担は軽くなるので、転職エージェントの面談では何を聞かれる? も参考にしてみてください。
1社に絞るのが向いている人
ここまで併用を勧めてきましたが、1社に絞ったほうが合う人もいます。次に当てはまるなら、無理に増やす必要はありません。
- 転職の期限が明確に決まっていて、短期決戦で動きたい人(やり取りする相手を増やすより、1社に集中したほうが速く進む場合があります)
- すでに信頼できる担当者に出会えていて、提案内容にも納得できている人(増やす理由がありません)
- 応募状況の管理そのものを負担に感じる人(管理できない併用は、さきほどのとおりリスクのほうが大きくなります)
自分で求人を探すこと自体を楽しめるタイプの方なら、転職サイトを主軸にする選択肢もあります。両者の違いは 転職サイトと転職エージェントの違い で整理しています。
よくある質問
Q. 何社まで増やしても大丈夫ですか?
A. 明確な上限はありません。ただ、さきほどの調査で「6社以上」と答えた人がいなかったことは、一つの目安になります。やり取りに使える時間から逆算して決めるのが現実的です。
Q. 併用を伝えると、紹介の優先度が下がりませんか?
A. 併用は一般的なものとして扱われているため、伝えたこと自体で不利になるとは考えにくいです。むしろ伝えないまま重複応募が起きるほうがリスクがあります。
Q. 途中で減らしてもいいですか?
A. 問題ありません。実際に使ってみて合わないと感じたら、そのエージェントとのやり取りを終えるのは自由です。
Q. 同じ求人を紹介されたら、どうすればいいですか?
A. 応募する前に担当者へ「他社からも同じ求人の紹介を受けています」と伝えてください。どちらから応募するかを調整してもらえます。
登録の前に確認しておきたいこと
対象となる経験年数や職種、対応エリアは、サービスによって差があります。登録を決める前に、必ず公式サイトで最新の情報を確認してください。
今すでに1社使っていて、提案の幅に物足りなさを感じているなら、性質の違うもう1社を足してみてください。会員登録だけで求人を見られるサービスもあるので、面談の予定を増やさずに選択肢を広げることもできます。